「世界狂犬病デー」に思う

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「世界狂犬病デー」に思う

「世界狂犬病デー」に思う

2023/09/30

9月28日は「世界狂犬病デー」

 9月には、どうも動物に関する記念日が多いようです。

  9月20日から26日は動物愛護週間です。
動物愛護管理法に基づき、国民の間に広く動物の愛護と適正な飼養についての
理解と関心を深めていただくため、制定されました。

 世界ゴリラの日(9月24日)というのもあります。
絶滅の危機にある野生のゴリラの保護と、
彼らの生息地である森林などの自然を守ることを目的として、 2017年に制定されました。

 

 そして、国連の記念日に指定され、
世界保健機関(WHO)や国際獣疫事務局(OIE)、世界獣医学協会(WVA)など
いくつかの国際的保健機関にも承認されている記念日として、
9月28日の「世界狂犬病デー」があります。

  人や動物における狂犬病を理解し、その予防法などについて、
より多くの人に知ってもらうことを目的として、
2006年(平成18年)に発足したNPO狂犬病予防連盟
(Global Alliance for Rabies Control:GARC)が制定しました。

 英語表記では「World Rabies Day」となります。

 2007年(平成19年)以降、この日には世界の各国において毎年イベントが開催され、
狂犬病に関する教育活動や、犬への狂犬病の予防注射などが実施されています。

日本では、狂犬病臨床研究会が主催し、厚生労働省が後援するシンポジウムなどが開催されます。

 

 しかし、実際のところ、この「狂犬病」という病気について、
一体どれだけの人が正しく理解しているといえるでしょうか?

「狂犬病」ってどんな病気?

 狂犬病は世界で5万人以上が感染する「人獣(畜)共通感染症」、
すなわち、ヒトにも動物にも感染・発症する感染症です。

   その病原体は、「狂犬病ウイルス」ですが、
実は犬に特異的な感染症ではなく、どんな哺乳動物にも感染すると言われ、
実際は犬よりも野生動物に多いようです。

 日本では、「狂犬病予防法」に基づき、犬の飼い主には、

・市町村に犬を登録すること。
・犬に毎年狂犬病の予防注射を受けさせること。
・犬に鑑札と注射済票を付けること。

 が義務付けられていますが、動物検疫所では、同法に基づき、
犬だけでなく、猫、あらいぐま、きつね、スカンクも検疫対象となっています。

 https://www.maff.go.jp/aqs/hou/52.html

 

   そして、狂犬病にヒトが感染した場合、致死率はなんと100% と言われています。
しかし、日本ではもうほとんど発症例がなく、国内では根絶されたとの情報もあるほどですが、
稀に「輸入狂犬病」の報告があり、感染症法では第4類に分類されています。

 一番最近では、2020年に海外から来日した方が発症した例があります。
 https://www.niid.go.jp/niid/ja/rabies-m/rabies-iasrd/10301-494d01.html

 狂犬病は「恐水病」とも呼ばれるように、
発症すると水を怖がると言われますが、脳・神経がやられることにより、
それ以上に重篤な神経症状を呈することが知られています。

 

 しかし、この恐ろしい病「狂犬病」には、
幸い、ワクチン(正確には中和抗体)が開発されており、
感染から 48時間以内に投与すると、発症に至らず、救命できるとされています。

 

 「世界狂犬病デー」である9月 28日は、
その「狂犬病ワクチン」の開発者であるフランスの偉大な生化学者であり細菌学者である、
ルイ・パスツール(Louis Pasteur, 1822~1895年)の命日なのです。

 パスツール博士は「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という言葉でも知られ、
牛乳・ワイン・ビールの腐敗を防ぐ、低温殺菌法の開発なども手がけた人物です。
炭疽菌、結核菌、コレラ菌等の発見者であるドイツの医師であり細菌学者でもある
ロベルト・コッホ博士(Robert Koch,1843~1910年)と共に「近代細菌学の開祖」と呼ばれます。

 

 余談ですが、同じ病原性微生物であっても、「細菌」と「ウイルス」は、
似て非なる、いえ、似ても似つかないと言った方が相応しいくらい
その生物学的性質を異にするものです。

 

 ウイルスの発見は、1892年ドミトリー・イワノフスキーの研究が
発端となったと言われていますが、人類がはじめてウイルスを視覚でとらえたのは、
1938年、ヘルムート・ルスカらが電子顕微鏡を用いて、
タバコモザイクウイルスを可視化した時です。

ヘルムート・ルスカの兄、エルンスト・ルスカが発明した電子顕微鏡無くしては、
ウイルスの発見はありえませんでした。

 日本が産んだ偉大な感染症研究者・野口英世博士(1876~1928年)も、
黄熱病の病原体がウイルスであることを知る術もなく、感染して亡くなりました。

 

   ルイ・パスツール博士は電子顕微鏡のない時代に生まれ、
ウイルスを見たことのない「細菌学者」でしたが、
それでもウイルスである「狂犬病ワクチン」を開発されたとは、尊敬しますね。

 

 それにしても、少し疑問に思うのは、ルイ・パスツール博士の命日なのに、
「世界狂犬病デー」であって、「世界狂犬病予防デー」ではないこと。

 狂犬病の発症を予防するために、ワクチンが開発されたはずなのに・・?

 

 

 

 日本国内では、狂犬病の感染・発症の心配はほぼなくなったとはいえ、
新たな「人獣(畜)共通感染症」が増えています。

 地球上で最も多くの人の命を奪っているのは、昔も今も感染症です。
人類と微生物との戦いは、やはりまだまだ終わりが見えないのでしょうか?

 

 

 

※ 写真は「狂犬病ウイルス」、出典は国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/394-rabies-intro.html

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