「世界脳卒中デー」と「脳卒中月間」
2022/10/31
日本人の死亡原因の第1位は、言わずと知れた「がん(悪性新生物)」で、2位は「心臓疾患」です。
では3位はというと、最近は「脳卒中」「肺炎」「老衰」が入れ替わり立ち替わり・・といった状態です。
高齢化が進んだ結果、肺炎や老衰が増えてきたものと考えられますが、
日本人にとって死をイメージするコワイ病気というと、
やはり「がん」、次に「心臓病」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、1951 年から 1980年までの 30年間にわたり、
日本人の死因の第1位は「脳卒中」だったことをご存知でしょうか?
そして、1981年にがんが死因の1位にのしあがってきた後も、
「脳卒中」はずっと2位または3位に君臨し、
日本人を苦しめ、死に至らしめることも多い病であることに変わりはありません。
では、その「脳卒中」とは、一体どんな病なのでしょうか?
「脳卒中」ってどんな病気?
実は、「脳卒中」というのは病名ではありません。
脳血管に障害が起こる病気、すなわち「脳血管障害」の総称で、
代表的なものとしては、脳血管が詰まる「脳梗塞」(のうこうそく)、
そして脳血管が破れることにより起きる「脳出血」や「くも膜下出血」があります。
脳梗塞とは、脳の毛細血管が詰まり、その先に血液が送られなくなることで
脳の細胞が壊死ししてしまう病気で、症状としては、
意識障害や半身麻痺、言語障害などが現れることが多く、後遺症が残りやすいのも特徴です。
脳出血は、脳の中でも特に深い部分にある細い血管が破れ、脳の中に出血してしまう病気で、
高血圧の程度が強い場合に血管が破れることで発症することが多い病気です。
他に脳梗塞の発症リスクを高める原因としては、
不整脈(心房細動)、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などが挙げられます。
くも膜下出血は、くも膜と呼ばれる脳表面の膜と脳の空間の「くも膜下腔」にある血管が
切れることにより起こる病気です。
くも膜下腔には脳脊髄液が存在しているのですが、その大切な部位の血管が切れる原因の8 -9割は、
脳動脈瘤と呼ばれる脳の動脈にできた「こぶ」からの出血です。
激しい頭痛や意識障害などが突然現れ、意識が混濁したり、失ったりすることもあります。
くも膜下出血では、発症直後のこの意識の状態が、予後に大きく関連することがわかっています。
3割の人は治療により後遺症なく社会復帰しますが、2割の人は命を取り留めても後遺障害が残ります。
残り5割は初回の出血で死亡するか、病院にきても治療対象とならないなど、残念な結果を招くことになります。
脳出血やくも膜下出血の発症リスクを高める原因としては、他に喫煙、飲酒などの生活習慣が挙げられます。
このように、「脳卒中」と言っても、原因や症状は病気の種類によって多少異なるものの、
共通して言えることは、命に関わるだけでなく、運よく一命をとりとめたとしても、
後遺症が残るケースも多いということです。
実際、日本では、寝たきり老人の約3割、要介護状態の人の約2割が「脳卒中」によるものですが、
40~64歳で介護が必要となる方の半数は、脳卒中が原因となっています。
「脳卒中」は、健康寿命を縮め、介護保険の財源を圧迫する要因ともなっているのです。
「世界脳卒中デー」と「脳卒中月間」
こんな恐ろしい病、「脳卒中」に関する理解を深め、意識改革を促す目的で、
世界脳卒中機構(WSO)は、毎年10月29日を「世界脳卒中デー」として、
多くの啓発活動を行なってきました。
日本では、2002年から19年間にわたり、日本脳卒中協会が、
毎年5月最終週の「脳卒中週間」を中心に啓発活動を行ってきましたが、
世界と歩調を合わせ、2021年から「脳卒中月間」に変更し、
毎年10月の1ヶ月間に集中的に啓発活動を行うことにしました。
よって現在、日本では、毎年 10月が「脳卒中月間」となっています。
まだまだ「脳卒中」で亡くなる人は多い我が国ですが、
2020年の死者数は10万2956人と、1970年(昭和 45年)をピークに、
その後は減ってきているのも事実です。
これは、国が「脳卒中」の減少に力を入れてきた成果でもあり、
結果的に日本人の平均寿命を押し上げる一因となったとも言われています。
ちなみに、2023年度の「脳卒中月間」の標語のテーマは、「発症時の早期受診の重要性」だそうです。
脳卒中は突然起こります。いつどこで誰に起こるか、わかりません。
命を取り留め、症状を軽減し、後遺障害をできるだけ食い止めるためには、
一秒でも早く病院で治療を受ける必要があります。
「脳卒中」という病への理解を深め、予防に務めるとともに、
このことをできるだけ多くの人に周知していきたいものです。