天地始粛 (てんちはじめてさむし)・・・【自然医科学研究所】
2022/09/01
二十四節気では立秋 (8/7-8/22頃)も終わり、 8/23 -9/7は「処暑(しょしょ)」となります。
「処」には「止まる」の意味があり、すなわち処暑は「ようやく暑さが止まる候」という意味です。
日中はまだまだ暑いのに、朝晩は肌寒さを感じることもある今日この頃、なるほどなあ、と感じます。
昨夜は、急に寝苦しい熱帯夜から解放されましたが、夏の寝巻きや寝具では肌寒く、
かえって熟睡できませんでした。
そして8/28~9/1頃は、七十二候の「天地始粛 (てんちはじめてさむし)」となります。
「粛」は静まる、弱まる、縮まる、という意味ですが、ここでは「さむし」と読みます。
夏の暑さ(暑邪)が落ち着き、万物が静かな季節へと移行する時季とされています。
立春から数えて210日目にあたる9月1日頃は「二百十日(にひゃくとおか)」と呼ばれ、
台風が農作物に甚大な影響を与えることが多かったようです。
そのため、米農家では、この日は厄日として警戒されてきました。
台風が来ずとも、秋雨前線の影響で、北方から運ばれてくる冷たい空気が雨を降らせる候でもあります。
確かに、このところ、長い時間ではありませんが、毎日のように降雨があります。
まるで、異常に短かった梅雨を取り戻すかのように・・・
(注: 9/1 気象庁により各地の「梅雨明け」の日が訂正され、結局例年通りとなったようですが・・)
そして、あちこちで大雨による被害や土砂災害が発生していることに、胸が痛みます。
厳しい暑さも和らぎ始め、どこからか心地よい虫の声が聞こえてくるこの候には、
イチジクが旬を迎えます。
外から花が見えず、内側に小花がつき、果実となることから、漢字では「無花果」と書きます。
イチジクには、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルの他、
水溶性食物繊維のペクチンも豊富に含まれ、夏に失われた栄養素を補給してくれるだけでなく、
便秘の解消にも役立ちます。
また、ポリフェノールの一種であるアントシアニンや、たんぱく質を分解する酵素フィシン、
さらには女性ホルモンに似た働きをする植物性エストロゲンも含まれており、
目にも良く、女性の健康をもサポートしてくれます。
中医学的には、肝、脾、大腸に作用し、 消炎止痛(炎症を抑えて痛みを止める)、
健胃止痢(胃を健やかにして下痢を止める)、潤肺止咳(肺を潤し咳を止める)、
清熱潤腸(腸の熱を覚まして便器解消)などの他、
痔瘡や下痢、咽喉の腫痛、創傷の治癒、食滞の解消などの作用も持つ、優れた生薬でもあります。
傷みやすく日持ちがしないのが難点ですが、ジャムやドライフルーツにしてもおいしく食べることができます。
またこの候は、ハイビスカスを小ぶりにしたような涼やかさを持つ木槿(むくげ)が咲く季節でもあります。
朝に開いて、夜にはしぼんでしまう儚さから、「槿花一朝(きんかいっちょう)の夢」
といった成句もあります。
秋の七草の一つである萩も咲き始めます。
お供えにも用いられる和菓子の「おはぎ」は、この「萩」にちなんで名付けられたとされています。
台風や雨による被害と、気温の急激な変化による体調不良に十二分に注意しつつ、
去りゆく夏と秋の気配を同時に楽しめる時候でもあります。