ノーベル賞 week に思う -3
2020/10/18
学問の秋 - 自然科学分野ノーベル賞
生理学・医学賞、物理学賞に続いて受賞者が発表されたのは、
ノーベル化学賞でした。
化学賞の対象範囲は広く、近年は生理学・医学賞との境界が
曖昧になってきているとも言われますが、今回の受賞理由は、
生命科学分野の「遺伝子を改変するゲノム編集技術の開発」で、
米・仏の2人の女性研究者が、その栄誉に輝きました。
私もかつての大学勤務時代、分子生物学、
つまりゲノムをあやつる研究分野の仕事に従事した経験があります。
「21世紀は遺伝子の時代」と言われて久しいですが、
私が足を踏み入れた 1990年代は、
分子生物学はまだ手作業に頼る部分が多く、
遺伝子の塩基配列を解読する DNAシーケンサーという装置
(現在の次世代シーケンサーの前の世代) が勤務先に導入された時は、
こんなに楽で簡単に機械が解読結果を提示してくれるなんて・・・
と、感激したものです。
(それまでは、アイソトープ=放射性物質 を用いた
オートラジオグラフィーという方法で、長い時間かかって少しずつ
DNA シークエンシングを行う、気の遠くなるような作業の日々でした。)
遺伝子の塩基配列を読み取る最初の手法は、
英国の生化学者 フレデリック・サンガー博士が 1970年代に開発した
サンガー法と呼ばれるもので、博士はこの業績で 1980年に
2度目のノーベル化学賞を受賞しました。
その後、測定原理の改善と作業の機械化がはかられ、
そしてその機械 - シーケンサーの改良により、
作業の簡便化及び解読速度の飛躍的な向上が叶い、
「ヒトゲノム計画」の早期完了(2003年)にもつながったことは、
言うまでもありません。
「ヒトゲノム計画」により、ヒトの遺伝子が解明された結果、
DNA 配列の違いに合わせた個々人に対するオーダーメード
(テーラーメード)医療が可能になったのです。
今回の受賞は、そのゲノム情報を自在に書き換えることができる
ゲノム編集の新たな手法「CRISPR/Cas9 」の開発に対してですが、
この手法は、すでに農作物の品種改良などのほか、
新しいがん治療法の開発や、 COVID-19の研究にも用いられており、
人類に大きな恩恵をもたらし得る画期的な研究であると言えます。
その一方で、胎児の遺伝情報の書き換えに用いた場合、
「デザイナーベビー」の作製につながるという懸念もあり、
スウェーデンの王立科学アカデミーは、
「人類は新たな倫理的な課題に直面することになる」と指摘もしています。
それはさておき、
私が今回の受賞について感慨深かったもう一つの理由は、
受賞者が共に、女性であったという点です。
物理学賞の受賞者3名の中の1名も女性であり、
自然科学系8名の受賞者のうち3名が女性、
しかも全員、私と同世代という、
ノーベル賞受賞者としては比較的若い方々です。
我が国では、今でこそ「リケジョ」という言葉が使われるなど、
自然科学分野への女性の進出はめざましいものがありますが、
私が高校〜大学生だった頃は、理系への進学を希望する女子は
極めて少なく、異端児扱いされたり、
「(嫁の)もらい手がなくなるよ」などと
ありがたい助言をしてくださる教師や人生の先輩方も
いらっしゃったりするほどで、「男の世界」と見なされていたのです。
(今ならセクハラですけどね。当時はそんな言葉も定義もなかったのです。)
そのような時代だったので、
たとえ理系学部を卒業したとしても、
専門とは無関係な職種(事務系など)に就く女性も多かったのですが、
臆せず「男の世界」に飛び込んでみた結果、
諸外国では「スーパーリケジョ」ならぬ
一流の女性科学者達が当たり前のように活躍・昇進している
ことを知り、少なからず衝撃を受けると共に、
日本の将来を憂いたものでした。
そういえば、博士号を授与された際の学位授与式でも、
自分が紅一点でした。
最近、大きなニュースとなった
医学部入試における男女差別問題についても、
就職した当時から、噂で知ってはおりましたが、
それをとがめるような風潮もなく、
誰もが当然ととらえていたような・・・
遅すぎたとはいえ、その歪んだ実態が
白日の下に晒されたことは、医学分野のみならず、
今後の自然科学分野の構図や発展に
なんらかの影響を与えるのではないでしょうか。
がんばれ!! 日本の若きリケジョたち!!
写真;受賞者の二人 右:ジェファニー・ダウドナ氏
左:エマニュエル・シャルパンティエ氏
(NHK特設サイトより引用)