楓蔦黄 (もみじつたきばむ)・・・【自然医科学研究所】
2022/11/02
10月23日頃からの15日間は、秋の最後の二十四節気「霜降 (そうこう)」となります。
霜降とは、朝露が霜に変わるという時季を表し、朝晩の冷え込みが激しくなってくる候です。
日暮れが早くなり、晩秋の雰囲気が感じられる今日この頃です。
次の二十四節気は、「立冬」です。
七十二候では、霜降の末候『楓蔦黄 (もみじつたきばむ)』となりました。
文字通り、楓 (もみじ/かえで) や蔦(つた)の葉が色づく候です。
平野部では、まだ霜はおりませんが、緑の草木は枯れ、木々は秋の様相を奏で始めています。
北国や山々ではすでに一面の紅葉が見られますが、紅葉前線も日ごとに南下し、
中旬から下旬には、平地でも美しい秋の景色が楽しめるようになります。
この時期の代表的な風物詩でもある紅葉の主役となる(カエデ)は、
実は優れた効能をもつ生薬として、古代より用いられてきました。
カエデには色々な種類がありますが、韓国、ロシア東部、中国東北部などアジアで生育する
Acer barbinerve(チョウセンアサノハカエデ)は、毛脈槭(もうみゃくせき)とも呼ばれ、
その樹皮が関節炎、リウマチなどの鎮痛剤として用いられてきました。
北米に生育する Acer saccharum(サトウカエデ)の樹液は、滋養強壮のために服用され、
Rockey mountain maple(ロッキーマウンテンメープル)と呼ばれる Acer grabrum の樹液は、
Amelanchier asiaticaAmelanchier asiatica(シデザクラ)の煎じ液と混合して、
出産後の女性の子宮回復や乳汁の分泌促進をはかる目的で、服用されてきたとの報告があります。
また、ネパールでは、Acer caesium を吹き出の際に外用薬として用いてきました。
日本でメグスリノキ (Acer nikoense) と呼ばれ、洗眼剤や肝臓疾患の治療薬として使用されてきたのも、
カエデの1種で、別名「長者の木」とも呼ばれています。
このような伝承的薬理作用は、近年の科学技術の発展により、科学的に解明されています。
近代栄養学的にも、カエデの樹液には、ショ糖、果糖、ブドウ糖などの糖類のほか、
豊富なミネラル、酵素類に加え、アントシアニンなどのポリフェノール類も含まれており、
疲労回復や、万病の源そ言われる活性酸素の働きを抑える効果もあり、「長寿の妙薬」と言われています。
古代より私たちの近くに生息し、愛らしい形の葉をつけ、
秋のシンボルとしても用いられてきたカエデ・もみじは、
愛でて美しだけでなく、内用・外用に薬として用いることにより、
私たちの健康や命を守ってくれる頼もしい存在でもあるのですね。
そんな恵みを与えてくれた自然界に感謝しつつ、紅葉狩りに出かけて、
近くでしっかり樹木を観察してみようかな〜 などと考えたりもする、秋の夜長なのでした。